Personal-Computer Support Volunteer Conference 2004 KANAGAWA

パソコンボランティア・カンファレンス

PSVC2004 KANAGAWA

基調提案

1)パソボラの源泉

○助けては力
 障害のある人のIT利活用は、自立と社会参加への強力なパワーになるものの、その習得には障 害ゆえのさまざまなバリアがあります。パソコンボランティア(パソボラ)はそんな一人ひとり の障害のある人の「助けて!」に応えて、パソコンの利用やインターネットへの接続、環境設定 の手助けをする活動の総称としてきました。

○パソコンの向こうには人がいる
 ITというとハードやソフト、「技術面」がイメージされ、「こころ」や「ひと」が疎遠に感じ られがちです。しかしITは道具です。道具を使おうとするのは「ひと」です。それを手助けしよ うとするのも「ひと」。インターネット上でコミュニケーションするのも「ひと」なのです。パ ソボラは、「パソコンの向こうには必ず人がいる」と確信できるきわめて人間的なとりくみで す。
 障害のある人のIT利活用の熱意にふれ、「できた!」という喜びを共有できる嬉しさ。支えて いるはずの自分が、じつは支えられている実感。しみじみと味わうなんともいえない達成感があ ります。そして、このとりくみには、日常では考えられないような、新しい人たちとの出会いの 喜びがあります。人と人との連帯感がパソコンボランティアのとりくみの源泉といえるもので す。

○「助けて!」から「助け手」へ
 また、最初は「助けて!」と援助を求めていた人も、だれかのサポートでITが利用できるよ うになれば、「わかる」喜びを体験します。すると「助け」を求めていた本人が、新しい「助け 手」としてパソボラをすることができるようになります。障害があろうとなかろうと、また障害 があればその障害のスペシャリストとして、だれもが主人公になれるのです。発見や感動を共有 するとき、本当のコミュニケーションは生まれます。パソボラ活動は、そんなわくわくするよう なたくさんの事例を生み出してきました。

○課題はさまざまなレベルにある
 しかし、一人ひとりの障害のある人と向き合い、その要望、期待に応えようとするとき、さま ざまな問題が生まれます。「なんとかしたい!」と思っても、なんともならない現実。それは障 害や支援機器などの理解、支援の技術がたりないといった「個人レベル」の問題なのか。パソボ ラグループの「集団レベル」の力量の問題か。さらには、自治体や国といった「行政レベル」の 問題なのか、それともメーカーなど企業の問題か? などなど、個人、集団、社会のそれぞれの レベルで、さらにはそれらすべてを総合的にとらえて、考えなければならないことがたくさん生 まれています。

2)「パソボラ・カンファレンス」以後の大きな変化

 私たちは、パソボラ活動の前進のため、なによりも障害のある人たちの願いと夢の実現のため に、2つの大きなテーマにとりくむとともに、多くの人びとにむけてメッセージを発信してきま した。
 一つは、パソボラのとりくみの一つひとつの事例を大切にし、そうした情報をつなぎ、人と人 とをつなぐことを重視しました。活動の節目として、1997年よりパソコンボランティア・カン ファレンス(PSVC)を開催しています。カンファレンスとカンファレンスの間はバーチャルな 「場」である「PSVメーリングリスト」を活用して、つながりの輪を広げてきました。メーリン グリストでは現在500名がつながっています。
 二つめは、全国的なネットワークだけでなく、「自転車でいける地域にパソボラを!」と、顔 の見える地域での組織づくりをよびかけました。現在、障害のある人たちのIT利活用支援にとり くむグループや組織は100以上となり、当初からは倍増しています(日本障害者協議会2004年調 査研究より)。
 一方、そうしたとりくみをバックボーンにしながら、行政のすべきこと、果たすべきことを、 意見表明し、政策提言してきました。
 2000年秋のIT国会では、IT基本法をめぐって、すべての人のためのIT社会実現のためには、障 害者を含めた情報格差是正の問題がクローズアップされました。障害のある人もない人も、地方 の人も、デジタルデバイド(情報格差)是正が、大きな政治テーマとなったのです。私たちは、 情報保障はIT時代の基本的人権であると考え、障害者問題の視点から参考人意見を述べました。 また、IT戦略本部が作成した「e-Japan重点計画」に対して、「すべての人のための「愛と手 (あいてぃ)」推進のために」の緊急提言を行いました。
 全国の自治体で 550万人を対象にとりくまれたIT講習会では、各地のパソボラが積極的にこの 事業に協力して、障害のある人を対象にした事業の芽生えがありました。そうした事業の中から 誕生したグループやNPO組織もたくさんあります。
 一方、パソコンなど情報処理装置や電気通信機器、いわゆるホームページのアクセシビリティ の向上めざし、各指針のJIS化がすすめられています。
 また、「ハードも必要。ソフトも必要。そして、教えてくれる人が必要」と日本障害者協議会 (JD)が実験的にとりくんだ「リサイクルパソコン」のとりくみは、その後、障害者小規模作業 所全国連絡会の「きょうされん」と高齢者NPOとの共同事業として発展しています。
 こうしたとりくみと世論の中で、「パソコンは汎用性がある」の「理由」で支給されなかった パソコンも日常生活用具として認められ(2002年)、「パソコンボランティ養成・派遣事業」 (2002年度)」、「障害者ITサポートセンター運営事業(2003年度)」が予算化されました。 しかし、「財政難」を理由に、福祉関係予算全体が大幅に削減されているなかで、財政的な裏付 けが脆弱な事業は、それぞれの現場でさまざまな矛盾を生み出しています。
 また、現在大きな問題となっている、支援費の介護保険統合問題や「改革のグランドデザイ ン」の議論では、たとえば、車いすなどの「補装具」は、「障害者介護給付」という利用者の 「応益」負担を求める「個別給付」に、パソコンなどの「日常生活用具」は「生活支援事業」と いうそれぞれの市町村が決める方向が出されています。

3)障害者のIT利活用支援の現状と課題

 日本障害者協議会がとりくんだ「障害者IT支援・サポートモデル」調査研究事業」(2004年 度)は、各地でとりくまれている実態を調査し、典型的な地域の活動や課題を分析、整理したも のです。
 それによれば、すくなくない都道府県でITサポートセンターの事業がはじまっていますが、そ の運営には試行錯誤が続いています。うまくいっているケースには、既存のNPOやパソボラとの 緊密な連携があること。また、派遣するのはきちんと育成された「サポーター」であること。IT サポートセンターはボランティア活動の「センター」としても期待されていること等が指摘され ています。
 そして、1)当事者の参画、2)専門機関、地域の社会資源との連携、3)重度障害者への対応、4) より身近な地域での事業展開などが課題とされています。
 IT先進国といわれる北欧の障害者は、どんなに障害が重くても、希望すれば何重もの支援が公 的に位置づけられています。IT利活用でも、ITの得意なヘルパーを雇用したり、地域の補助器具 センターの作業療法士を相談窓口としています。地域レベルで対応できない場合は、国レベルで の研究機関が対応します。これらは、障害のある人に限らず「すべての人」にとって、希望すれ ば支えあうという北欧しかできない独自のサポートシステムなのでしょうか? わが国では、ど のような支援システムを求めればいいのでしょうか。

4)行政には行政の責任と役割がある

 国連で現在急ピッチで議論されている障害者権利条約は、「どのような障害の種別をもつ人に 対しても、政府は、情報とコミュニケーションを提供するための方策を開始すべきである」とし た機会均等に関する基準規則(1993年、国連)をもとに、「障害のある人の情報へのアクセスを 保障するための援助及び支援(assistance and support to persons with disabilities)を促進す ること」(試案 第13条)が検討されています。
 わが国においても、2004年、改訂された障害者基本法は、「情報の利用におけるバリアフリー 化」として第19条で、国及び地方公共団体が施策を講じなければならないこと、事業者は障害者 の利用の便宜を図るよう努めなければならないことを義務づけています。希望があれば、それを 支援する責任は、まず国や自治体にあるのです。そして、住み慣れた地域で、ITの利活用を希望 する障害のある人たちをサポートする人的システムづくりがいま強く求められています。
 行政の役割は、なによりも支援システムの「幹」となる「人材育成」と「働ける環境づくり」 をしっかりつくることです。障害のある人と直接関わる仕事は、IT分野に限らずマニュアルでは 対応できません。求められる「専門性」は、1)ITの支援技術や機器がわかり、かつ「障害」がわ かり対応できる。2)例えば、リハビリテーションセンターなどの専門機関や地域のボランティア などをつなげることのできる力です。そうした「専門家」の育成には時間も財源も必要です。同 時に、その専門性にふさわしい働き続けられる仕事場と待遇が求められます。
 一方、それぞれの地域にはそれぞれの「ひと」や「もの」の蓄積や社会資源があります。例え ば、ITサポートセンターもそれぞれの地域の特性や、情報、「ひと」などさまざまな特色を活 かした個性的なとりくみが期待されます。

5)パソボラにはパソボラの、待望される出番がある

 では、今日における「パソコンボランティア」の役割はなんでしょうか。ともすると「ボラン ティア」が強調されるあまり、「タダでパソコンを教えてくれる人?」などの誤解も生まれてい ます。行政や事業者の責任があいまいにされて「安上がりのサポーター」となっているのではな いかと感じるときもあります。
 大事なことは、「パソコンボランティア」のとりくみは、なによりも1)自主的な、主体的な活 動であること。そして、2)障害のある人とITの利活用というテーマをきっかけ(入口)にした、 人間理解、人間連帯の「共生の地域づくり」のとりくみだということでしょう。
 個人と個人、グループや集団がそれぞれ独立しながら、対等平等にそれぞれ連帯する。例え ば、地域にITサポートセンターがあれば、対等平等に連携し、互いの話し合いの中から、必要な パソコンボランティアの役割が明らかになります。「上下」の関係ではなく、 「ヨコ」の関係のなかからパソボラの役割がよりクローズアップされるでしょう。
 IT利活用には、当事者自身の意志と努力が必要です。そして、それを支え、うながす人たちと の出会いの場がなければ飛躍がありません。一人ぼっちでなく、「ひと」との出会いによってエ ネルギーが活性化することはさまざまな事例が教えてくれます。
 パソコンボランティアはだれもができます。でも、パソコンボランティアとなるためには、そ の地域で果たすべきパソボラならではの役割を自覚することも大切です。一人ひとりの初心をい かしながら、障害のある人とともに、また、地域のさまざまな人たちや専門機関と手をつない で、生きている喜びを感じられる共生のとりくみをより発展させていきましょう。

<国や自治体への要望>

1)地域にITサポートセンターなど支援機関の設置とパソボラとの連携を
2)公的な責任による専門家の本格的育成を
3)障害を配慮したIT講習の場の確保を
4)重度の障害者へのサポート体制の確立を
5)パソコンや周辺機器など「もの」の研究開発と企画段階からの当事者参画を
6)以上を推進するために必要な財政の確保を

2004年12月

日本障害者協議会情報通信委員会
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Last Modified 2005-2-6
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