障害者自立支援法訴訟 さいたま地裁第1回口頭弁論 意見陳述
原告 五十嵐 良
1)生い立ち
私は、先天性の脳性まひの障害を持って生まれました。
幼少のころは、親元を離れて施設で生活し、養護学校を卒業したあと、職業訓練を受けるなどし、
現在は、そめや共同作業所に通いながら、生活ホーム「かえでホーム」に入居して生活しています。
2)自立支援法の成立
障害者自立支援法は、当事者、関係者の意見を取り入れないまま、郵政選挙後、わずか2か月で成立してしまいました。
法案成立の2005年10月31日、私は国会へ傍聴に行きましたが、あの日の雰囲気は一生忘れることができません。
全国の障害者が国会を囲みました。法案成立の瞬間は、本当に悲しい気持ちでした。
3)自立支援法によって変わったこと
自立支援法になって、一番悲しかったことは、一緒に作業所で働いていた仲間たちが、利用者負担を理由に辞めていったことです。
私は、そめや作業所に入所して16年になりますが、当初は印刷の仕事をしていました。
私の仕事は、印刷物の原稿をワープロやパソコンを使って作ることでした。
しかし、法律の施行後、作業を支えてくれていた仲間が辞めてしまったため、印刷の業務は中止されてしまったのです。
このことは、今でも本当に寂しい気持ちです。
4)私にとっての作業所
私にとって、作業所は、仕事をし、働くための大切な場所です。
現在、作業所では豆腐販売を行っており、仲間が作業所の近辺に豆腐を売りに行きます。
私自身は、パソコンを使用し、販売チラシを作ったり、売上の集計作業をしています。
作業所に通う前は、「作業所は福祉施設である」という甘い考えを持っていました。
でも、印刷作業でお客さんから入力ミスで厳しい指摘を受けたり、悔しい思いを何回もしました。
お客さんからしてみれば、作業所も、町の印刷屋さんであり、豆腐屋さんなのです。
政府の考えでは、作業所は、利用者にサービスを提供する場となっています。
だから、利用料は利用者負担という発想になるのだと思います。
しかし、実際は違います。
通所者、職員が一丸となり、一円でも高い工賃になるよう、障害を持っている人がより良い暮らしができるよう頑張っています。
今、作業所で行われている活動は、サービスでも、益でもありません。
生きて、働くことそのものなのです。
利用者負担は絶対に廃止すべきです。
5)自立支援法と利用者負担
法案の成立の時、厚生労働省の人は利用者負担について、こう言いました。
「健常者は、電気代やガス代を払いますよね。障害者の人も福祉サービスを受ける場合は、費用を払って下さい。」
でも、健常者の人がトイレに行くのにお金はかかるでしょうか?
僕が、将来、一人でトイレに行けなくなった場合には、お金を払ってヘルパーを呼び、トイレに行かなければなりません。
障害者も、電気代、ガス代はもちろん払っています。
障害があるために、補えない部分を国や自治体で保障してもらいたいのです。
6)最低限の生活の保障を。
この法律ができたことによって、私の生活も大変苦しくなりました。
現在35歳になりますが、両親の経済支援がないと生きていくことができません。
しかし、両親だって年金生活です。
本当は、就職して働きたいと思っていますが、今の社会資源や、私の体力では、難しいです。
日本国憲法25条には、こう書かれています。
「1 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」
しかし、現実には、多くの人たちが、「このままでは、障害を持っている人たちが生きていけない」と、不安を感じています。
7)この訴訟にのぞむこと
最後に、私は、この訴訟の原告となることについては、とても悩みました。
家族の理解もあり、立ちあがることができましたが、訴訟には参加できなかった仲間がたくさんいます。
裁判官の皆さん、どうか、私たちの作業所を一度見に下さい。
みんな一生懸命頑張っています。
今の、障害者の実情をくみ取ったご判断をお願いします。
本日は、ありがとうございました。